余裕

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その時はまるでわからなくても、何年かたってから後に、わかることというのが時々ある。

四段となって一人前の棋士になったのは22歳の時のこと。

最初に通いはじめた将棋クラブの席主に、ごあいさつに行った時のこと…。
部屋にはいると、将棋盤が並んでいる部屋のふすまに一枚の大きな張り紙。
「祝神崎健二君 四段昇段」と書かれててびっくり。
お客さんの中で、そういう文字を書くのが得意な人に頼んで書いてもらったそうだ。

自分でも、意表をつかれて、あまりにも照れくさかったのか、
「いやーこれは…ちょっと…」と言って照れながら、それをはがしてしまうという
大悪手をしてしまう。

今から思えば当時は、なんとかして四段になることだけを考えていて、その気持だけがあまりにも強かったためか、いろんな点でのゆとりというものがほとんどなかった。
なかなかスムーズに昇段できなくて、周囲にどれだけの心配をかけていたかなどを考える余裕もなかったのだろう。

何年か前に、ある新四段が「昇段のお祝いはいっさい辞退するつもりでやらないつもりです」というようなことを言ってたのをどこかで読んだ時
かなり意味あいとか理由は違うのだろうけれども、ほんの少しだけホッとした気分になった。

当時の自分の行動が決して良いとは思えないのだが、
でもそれぐらい、単純だった頃も懐かしい気も少しはある。
Copyright (c) 2001 Kenji Kanzaki